一度のコラボレーションにつき、必ず2シーズンに渡ってデザイナー中嶋氏のアンテナに掛かったアーティストをフックアップし、アートとファッションとの融合を具現化したアイテムを展開しているALMOSTBLACK。2024年秋冬は、アートとしての「書」を開拓した現代書家、井上有一氏とのコラボレーションを実現しています。同氏は残してきた数多くの作品のみならず、一生涯を通した自身の生き方も含め、イデオロギーに囚われない自由な表現に拘りました。そしてこの点が今シーズンのALMOSTBLACKに大きな影響を与えたとの事。世に生み出す作品は違えど、その姿勢が同じ表現者としてデザイナー中嶋氏の心に深く響いたのだろうと僕は感じました。それぞれの「書」に込められたメッセージからは非常に学びが多く、素晴らしいコレクションを作り出しています。本アイテムでは井上有一氏の代表的な作品の一つ「貧」(1972年)をフォーカス。井上氏が残した言葉にこういうものがあります。「コーヒーを飲むより水の方がうまいということです。上等なベッドに寝るより青畳の上へゴロリと寝た方が気持ちがいいという事であります。つまり一言にして言えばこれは、”貧“であります。貧しいという字です。貧困はいけません。人間は今、貧のスバラシサに気が付かねばいかんと思います」。この“貧”という一文字は、元々油絵を学んでいた井上氏が文字を書きたい!という衝動から、家のボロい襖に初めて書いた一字書きだそうです。自身の原点を辿る一文字であり、自分自身を見失わないために無駄な欲は出さない大切さを問いているかのように感じますね。本アイテムにおいてもALMOSTBLACKが得意とするミリタリーをインスパイア源とし、ゆったりとしたシルエットを特徴とするM51モッズコートをアレンジしたこのロングシャツ。素材には敢えて素朴なナイロン地を用いていますが、”貧“のメッセージを汲んだような生地選定としているのではないでしょうか。衿や前立て、袖口、裾は断ち切りとし、着用していくうちに糸が解れていく儚さも井上氏の表現に重ね合わせているようですね。左袖にはミリタリーウェアに付けられるスペックタグのデザインを引用し、作品のクレジットを表記する事でアーティストに対する敬意を表しています。裏地のない一重仕様としていますので、Tシャツの上にお気軽に羽織れるアイテムとしてお勧め致します。
ALMOSTBLACK公式通販 オールモストブラック正規取扱店
マネキン着用サイズ : 3
マネキンサイズ
身長182cm、バスト90cm、ウエスト76cm、ヒップ88cm、肩巾53cm、袖丈63cm、頭回り59cm
RAF SIMONS STUDIOで経験を積んだ中嶋峻太氏が手掛けるメンズブランドALMOSTBLACK ( オールモストブラック ) のAW24コレクションのご紹介です。
AW24シーズンは戦後の日本現代美術を代表する書家である「井上有一」( 1916 年-1985 年 ) 氏とのコラボレーションアイテムを展開しています。
井上有一氏は「書」を現代美術として昇華した偉大な人物です。東洋由来のシンボルの一つである「書」と西洋の表現方法であった「アクションペインティング」をミックスした様な革新的な作品は多くの影響を与え、著名なアーティストであるジャクソン・ポロックなどと並び世界的に評価されました。漢字と書の源郷である中国においても各都市の近代美術館で回顧展が開催され、他の書家を讃える際に「ポスト有一」という名称で使用される程、認められた書家でした。
以下AW24ブランドオフィシャルリリースです。
ALMOSTBLACKが2024年秋冬シーズンおよび2025年春夏シーズンにコラボレーションした井上有一 ( 1916年-1985年 ) は、現代美術としての「書」の開拓に闘志を燃やし続けた現代書家である。ALMOSTBLACKは2021年から日本を代表する美術家である勅使河原蒼風、細江英公、白髪一雄・富士子とコラボレーションしたコレクションを発表してきた。今回コラボレーションした井上有一が所属した「墨人会」は、白髪一雄・富士子が参加した「具体美術協会」と同時期に活動し、一時は交流も行われていた。また、2019年秋冬シーズンのコレクションで、インスピレーション源となった彫刻家イサム・ノグチも、井上有一の作品に関心を示したと言われている。
ALMOSTBLACKと井上有一に共通するのは、ジャンルに対する開拓者的精神であろう。
戦後間も無く、日本国内で前衛芸術が盛り上がり始めた頃、「書芸術を現代に生かし、現代の尊敬をかち得る」ことを求めた有一の目には、既存の書道界は「何もしていない」かのように映っていた。保守的であった書道界への反発から森田子龍・江口草玄・中村木子・関谷義道と共に「書の解放」を志して「墨人会」を結成した有一は、生涯をかけて「書」の芸術形式自体を鋭く問い直していくこととなる。1950年代半ばには、海外の展覧会や芸術祭への出品を通じて、海外の美術批評家から高く評価され、現代美術としての「書」が世界にも知られていく。
有一の書に向けられた世界的な関心は、西洋中心の現代美術の大きな潮流によって方向づけられたものであった。ウィレム・デ・クーニングや、ジャクソン・ポロックなど、抽象表現主義のなかでも特にアクション・ペインティングの手法を用いるアメリカのアーティスト、あるいはジャン・デュビュッフェやジャン・フォートリエといったヨーロッパ発の「アンフォルメル」のアーティストに続く新たなヒーローを、現代美術は求めていた。そのなかで有一の「書」は発見され、国外では可読性を超えて需要されていったのである。他方で、彼の作品の重要性を高めているのは、彼が残した多くの言葉たちの存在である。「書は万人の芸術である。日常使用している文字によって、誰でも芸術家たり得るに於て、書は芸術の中でも特に勝れたものである」という言葉には、「文字を書く」という書道のラディカルな可能性に光を当てた有一独自の視点がはっきりとあらわれている。
ALMOSTBLACKデザイナーの中嶋峻太もまた、ファッションのフィールドに軸足を置きながら、日本的美意識の追求のなかで戦後の前衛美術に可能性を見出し、その美術家たちが改めて「現代の尊敬をかち得る」ための礎となってファッションとアートのコラボレーションの可能性を切り開いてきた。2024年秋冬シーズンのコレクションでは、有一の代表作である《花》(1967年)や《愚徹》(1956年)、《貧》(1955 年)、《母》(1961年)、そして非文字の書《作品A》(1955年)をシルクスクリーンやパッチ、ジャガード織りで衣服に表現した。 デザイナーの中嶋は、単に衣服を有一の書のための支持体とするのではなく、作品から受けたインスピレーションを各アイテムのディティールに投影している。
例えば、切りっぱなしの裾は、《花》や《愚徹》などに見られる有一のトリミングの表現から発想している。
ALMOSTBLACKはこれまでもミリタリーアイテムやトラディショナルなユニフォームと芸術作品を調和させてきたが、このコレクションでは、ミリタリーアイテムに見られる縫い付けタグを、有一作品のクレジットを示すために活用することで、アーティストに対する敬意を自然なかたちで衣服に落とし込んでいる。
加えて、今回のコレクションでは、トップスのアーム部分にも立体的なパターンが採用されている。これは、全身を躍動させて書く有一の姿勢にインスピレーションを得たものだという。また、立体的に広がるAラインシルエットのアイテムも、中嶋が《愚徹》の末広がりのかたちに触発されたことをきっかけにしている。このような有一作品のファッションとしての昇華は、「書」を文字としてだけでなくイメージとしても受け取り、さらにそれを立体的に纏わせるという点で、これまでになく有一作品に没入する鑑賞体験を提供するものである。
有一は漢字を書くことについて、「私がある一字を書いた時、その文字の意味を聞かれることがよくある。その時私は字引にある説明程度のことを一応は答える。しかしそれはほんの入口に過ぎないのだ。(中略)漢字は単に意味と形と音を持つコミュニケーションの記号として片付けられるものではない」と述べている。有一が「書は万人の芸術」と述べたように、おそらく服を着ることもまた、文字を書くことと同程度社会に開かれた行為であり、その反面、芸術としての側面を持っていると言えよう。衣服は、単に体を守るためのものではなく、また、単なる装飾に留まるものではない。ALMOSTBLACKのコレクションは、有一の書のように彼らの精神を体現しているのではないだろうか。
このようなリリーステキストから分かるようにALMOSTBLACKはアートコラボレーションに対して他ブランドと異なる表現がブランドの個性となっています。
一般的にはアーティストやクリエーターの作品のみを服上にプリントする、刺繍する、etc。つまり、服の上に視覚的な作品のみを取り付ける方法論をとります。ALMOSTBLACKは視覚的なプリントも用いますが、一人のアーティストを深く掘り下げ、アーティストの考え方やメッセージ、そして作品が持つ特徴や方向性、そして世界観。つまりは視覚化出来ない哲学的部分を、服上でデザインやディテール、カラーパレットなどで表現しようとしている事が、世の中に溢れている一般的なコラボレーションとの差です。ARTとFASHIONの真の意味での融合を目指しています。
●本アイテムは100%ナイロン生地を用い製作されています。
●ALMOSTBLACKらしくミリタリーがインスパイア源となっています。M51モッズコートのフードをカットし、シャツコートタイプとして表現しています。
●後身頃に井上有一氏の1972年の作品「貧」をプリントしています。この ” 貧 “ という一文字は、元々油絵を学んでいた井上氏が襖に初めて書いた一字書きでオリジナルは消失していますが、自身にとって重要な文字を年代毎に作品を制作しています。左袖に1972年の作品「貧」のクレジットをプリントしています。
●衿や前立て、袖口、裾はカットオフ仕様です。ステッチが入っている為、ほつれてはきません。
20240622
FABRIC : Nylon100%
COLOR : Black
COUNTRY OF ORIGIN : Japan